シングルマザー・イン・NYC
ずいぶん立ち入ったことを聞く運転手だな。

「――なぜそう思うんですか?」

俺がきくと彼は笑った。

「……若い男の悩みは大体それだろ? あんた、指輪してないから未婚だろうし」

「……」

やがてタクシーは高速を降り、マンハッタン先端部の、高層ビルが立ち並ぶエリアに入った。

「降りるのは、(ワン)ワールド・トレード・センターでいいんだね?」

グラウンド・ゼロの跡地に建つ、壁面に空を反射する美しいビルだ。

「はい」

「ホテルには寄らずそのまま仕事か。タフだねえ」

「ええ、まあ」

希和に会う時間を作るために、仕事を到着直後から詰め込んだのだ。

やがて目的地に着き、俺はタクシーを降りた。運転手は

「幸運を祈る。頑張れよ」

と屈託のない笑顔で親指を立てた。
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