定期の王子様
ううっ、最悪だ。
今度会ったら、ちゃんとお礼を言おう。



それから学校帰りは定期を拾ってくれた人を捜すようになった。
手がかりは、眼鏡。
黒縁の眼鏡をかけていた。
よく顔は見てないが、思い起こすとイケメンだった気がする。
そう思うとますますちゃんとお礼を言わないで損をした気がした。



定期の彼が見つからないまま少したった頃。

――ピンポン、ピンポン、ピンポン。

「え?」

朝のバス、定期を通したら弾かれた。

「……またあんたかよ」

ちらっとこちらを見た若い運転手が小さく舌打ちをし、なにか言った気がするんだけど気のせいかな。
まるで誤魔化すかのように目深にかぶった帽子の位置を運転手は直した。

「期限、切れてますよ」

「あ……」

そうだ、完全に忘れてた。
今日の夜しか買いにいけないから、今日はお金払っててね、ってお母さんに言われていたのに。
慌てて財布を開けたものの、お小遣い日すぐで小銭はおろか、五千円札しか入っていない。

「五千円札、両替とか……」

「できませんね」

わかってるけどさ。
もうちょっとこう、言いようがあるじゃん?

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