定期の王子様
「次、乗ったときに払ってください」

「……わかりました」

運転手は少し俯き気味に私の方を一度も見ないばかりか、降りる背中に向かってさらに舌打ちされた気がした。

……感じわる。

おかげでずっと、むかむかしていた。

定期の彼と似たような眼鏡をかけていたし、年も近そうだったが、全然違う。
あっちの彼はこう、もっと爽やかで、王子様みたいな?
拾った定期をにっこりと笑って差し出してくれる彼を思い出したら、少しだけ機嫌が直った。


帰りのバスで朝のバス代を払いかけて思い直す。
どうせなら、あいつの目の前で払ってやりたい。


翌日、定期を通したうえに賃金箱にバス代を入れたら、あいつが怪訝そうに視線を向けた。

「昨日のバス代です」

思いっきりすました顔でそう言ってやったら、さりげなく帽子の位置を直しながらあいつがにやりと笑った気がした。

……やっぱり、性格悪い。



毎日、学校帰りに定期の王子様を捜すけど見つからない。
うん、私の中で定期を拾ってくれた彼は完全に王子様になっていた。
爽やかイケメンで、優しくて。
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