セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】


 記憶にない自分がどうしてそれで納得したのかは分からない。だが今の自分はそれを嬉しいと思うことは出来なかった。
 何故なら……

「私が、ここにはいます。私は颯真(そうま)さんの妻で、今までこの家に暮らしてたんですよね? 私がこの家の家事をやるのは駄目だったんですか?」

 母との暮らしの時だって、花那(かな)が家事全般を担っていた。確かに掛け持ちで仕事をしながらだったため、完璧とは言えなかっただろうが。
 それでも自分がいるのにどうして颯真が使用人を雇っているのか理解出来ない。

「花那が? いや、駄目だ。君はまだ事故の怪我が完全に治っているとは言えない、記憶だってまだ少しも……」

「怪我なんてもう痛みも無いんですよ、家事をすることは出来ます。記憶の事は……すぐにどうこうは出来ませんが……」

 記憶について責められると花那はとても困る。医師にも言われたが、何がきっかけで戻るか分からない不安定なものだそうだから。
 家事がやりたいので記憶を戻します、なんてことできるわけがないのだ。

「しかし、以前の君ならそんな事は……」

「そんな記憶にない私のことを言われても同じようには出来ません! 颯真さん、出来れば今の私を見てもらえませんか?」

 記憶にないときの花那も今目の前にいる人物も花那のはずなのに、颯真にはまるで別人のように見えた。
 その花那も過去の自分ばかりを中心として考える颯真に少しだけ苛立ちを感じていた。


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