セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】


「……そこまで言うのなら好きにしていい、君に無理のない範囲での話だが」

 先に折れたのは颯真(そうま)だった。今まで自分の意見などほとんど言った事のない花那(かな)の変わりように、彼は驚きを隠せないでいた。 
 反対に花那は颯真が自分の意見を受け入れてくれたことを喜び、名前の通り花のような笑顔を見せた。

「ありがとうございます、颯真さん」

 颯真の知っている花那はいつも無表情で、こんな風に自分に向かって笑いかける事などなかった。何がしたい、何が欲しいと颯真が聞いても、いつも首を横に振るだけで……

 ——まるで別人のようだ、俺の知っている花那とは。

 そう思った後でふと考える、自分はどれだけ花那の事を理解していただろうかと。はっきりと残っている彼女の発言はただ一つだけ。

『私達、離婚しましょう。今日でちょうど約束の五年が過ぎましたから』

 何の感情もなく、だたそう告げられた。その時の花那の目には悲しみも涙も浮かんではいなくて、颯真は引き止めても無駄なんだとすぐに理解した。

「いい加減、敬語は止めないか? 記憶が無くても俺たちは夫婦なのだから」

 今の花那になら言うことが出来る。本当はずっと伝えたかったのに、颯真との距離を縮めたがらない花那に、颯真はそう言うことが出来なかった。
 それが彼女が記憶を失くしてから、やっと言葉にできるなんて……


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