セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】
「良かった、嬉しいです……」
小さなたくさんの花が咲いたような笑顔、花那という名前に似合うその微笑みに颯真は見惚れていた。
この五年間、一度もこんな笑顔を花那は見せる事は無かったし、颯真も見ようとは思わなかった。
いつもと変わらない暮らしが出来て、祖母の目さえ誤魔化せてればいい……颯真にとってはそれだけのための結婚だったのだから。
「どうしてそんな事で笑う? 今までそんな顔は一度だって……」
「嬉しいから笑う、それがおかしいことなの? 私はもともとよく笑う方だし……」
花那は嘘はついていない。母が倒れ父が亡くなってからは笑う暇もないほど忙しかったが
、彼女は子供のころから些細な事で笑顔を見せたいた。
——俺と一緒に居た五年間、花那は笑う事は無かった。もしかしてそれも俺の所為なのか?
柔らかな花那の笑顔から目を逸らせない、だがそれと同時に過去の自分たちの関係の薄っぺらさが嫌というほど分かる。
笑顔だけじゃない、怒った顔も、泣いた顔も……どの表情も颯真は見たことが無い。
——そうか、俺は花那が出て行ってずっと後悔していたんだ。こんな我儘な結婚に付き合わせておいて、上手くいっていると思っていたのは俺だけなんだ。
だが今さら気付いても、彼女には謝れない。
「颯真さん……?」
心配そうに颯真を覗き込む花那に、彼は大丈夫だというように頷いて見せる。
「腹が減ったのかもしれない、そろそろ食事の準備を頼んでいいか?」
「はい!」
機嫌よくキッチンへと戻っていく花那の後姿を見ながら、颯真は複雑な思いを自分な中で抱え込むしかなかった。