エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
数日付き合えば、雅樹が不機嫌なわけではないとわかると思うが、クールな話し方は怒っていると取られかねない。

「すみません、僕、コイル塞栓術しかやったことがないんです……」

顔色を窺うようにして答えた土井に、雅樹はハッとした。

(出会って間もない頃の友里と同じだ。笑っていられる状況ではないが、怯えさせないようにしないと……)

「謝る必要はない。誰でも最初というものがある。確認したのはどこまで細かく指示をすればいいかが知りたかっただけだ」

「始めよう」と雅樹が口角を上げて見せれば、土井がホッとして「ご指導お願いします」と意欲を見せてくれた。



早く帰りたいと仕事を急いだが、雅樹が病院を出たのは零時。

他にも急患が搬送されてきて、続けて手術室に入り、容体が安定するのを待っていたら結局いつもの帰宅時間だ。

(レストランには行けるかと思ったが無理だった。友里に連絡もできず、こんな時間だ。寝ているよな。いや、あるいは、玄関を開けたら、いないということも……)

マンションに着いた雅樹は、自宅の玄関ドアを開けるのをためらう。

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