エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
彼と一年以上夫婦を続けていれば、不機嫌でそういう顔をしているわけでないのはわかる。

「雅樹さん、泣きたいのをこらえているんですか?」

夫の気持ちを読んで問いかければ、雅樹が唇を噛んだ。

「言わないでくれ……」

一歩下がってにこにこと夫婦を見守っていた助産師が、「お父さんも抱っこしてみましょうか」と雅樹に声をかけた。

助産師は女の子の方の赤ちゃんを抱き上げると、ひょいと雅樹の腕の中に移す。

怖々といった様子で抱っこしている雅樹。

普段、少しでもミスすれば命取りな手術をしている彼が、緊張を隠せない様子で我が子を抱く姿は新鮮だ。

そして、こらえきれずに涙を流すのも初めて見る。

「軽いのに重たい気がする。命の重みだな。俺たちの子。生まれてきてくれてありがとう……」

雅樹の胸の震えが伝わってきて、友里の目にも涙が浮かぶ。

この感動は一生忘れないと、心に焼き付けた友里であった。





< 118 / 121 >

この作品をシェア

pagetop