エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
友里は退院書類をパソコンの脇によけ、急いでカルテの準備を始めた。

患者情報を入力しながら、肩を落とす。

(ミスして迷惑かけてしまった……)

すると後ろに、看護師たちのはしゃぐ声がした。

「妻に対して厳しいねー」

「所詮は政略結婚。愛なんかないもの」

噂が広まるのは早いもので、今では病院関係者全員が、友里と雅樹の結婚を知っている。

これまでは共に働く仲間として受け入れてもらえていたのに、友里に対する女性職員の風当たりが急に強くなった。

雅樹が友里を叱ったことを喜んでいる看護師たちの中に、久保田もいる。

友里のことを天使と言って可愛がってくれた彼女も、振り出しに戻ったように、友里に冷たくなった。

(看護師さんたちの気持ちもわかる。仕方ないのよ……)

雅樹は他病院から執刀のお願いもくるほど優秀な脳外科医だ。

将来性は抜群で加えて眉目秀麗。

皆が憧れるのも無理はない。

新参者が、理事長の娘だからという理由で雅樹と結婚したから、悔しいのだろう。

横取りされたような心境に違いない。

声を潜めない陰口はまだ続いている。

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