エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
脳外科病棟のクラークは、山内と友里のふたりだが、山内はあちこちの病棟のクラークを兼任している。午前中は消化器内科、午後は脳外科、といった具合に。人が足りないのだ。今は友里がひとりだけの時間帯で、そういう時に限って運悪くやらねばならない業務が重なる。
性格上、落ち着いて仕事をしているように見えるかもしれないが、友里は静かに慌てていた。
取りあえず、早くと急かされた退院患者の手続きを行っていたら、「おい」とカウンターテーブルに白衣の腕を突き立てられた。
それは雅樹の手だ。
横に振り向くと、彼の眉間には微かに皺が寄っていて、友里は肩を震わせた。
「緊急入院の横井さんのカルテ、まだ?」
口調はいつも通り淡々といていても、半年間一緒に暮らせば、彼が苛立っているのはわかる。
友里は焦って謝る。
「す、すみません。村本さんの退院手続きをしたらすぐに――」
「優先順位が違う。カルテが先だ。それがないと医師も看護師も薬剤部も動けない。退院は待ってもらえ」
雅樹はそれだけ言うと、白衣の裾を翻し、忙しそうにナースステーションを出ていった。
性格上、落ち着いて仕事をしているように見えるかもしれないが、友里は静かに慌てていた。
取りあえず、早くと急かされた退院患者の手続きを行っていたら、「おい」とカウンターテーブルに白衣の腕を突き立てられた。
それは雅樹の手だ。
横に振り向くと、彼の眉間には微かに皺が寄っていて、友里は肩を震わせた。
「緊急入院の横井さんのカルテ、まだ?」
口調はいつも通り淡々といていても、半年間一緒に暮らせば、彼が苛立っているのはわかる。
友里は焦って謝る。
「す、すみません。村本さんの退院手続きをしたらすぐに――」
「優先順位が違う。カルテが先だ。それがないと医師も看護師も薬剤部も動けない。退院は待ってもらえ」
雅樹はそれだけ言うと、白衣の裾を翻し、忙しそうにナースステーションを出ていった。