エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
愛のない結婚は続けるべきではないと言われた気がして、動揺を深めた友里であった。



時刻は二十時。

自宅でひとり、夕食を終えた友里は、エプロン姿で食洗器に入れる前の食器を軽くすすいでいた。

体調管理のために食事はきちんと取らないとと思い、トマトリゾットを作ったが、半分も食べられずに残してしまった。

心なしか胸が悪いし、疲労感が強い。

(体にもくるなんて、私はどうしてこんなに打たれ弱いんだろう。陰口なんか気にしなければいいだけなのに。こんなことで倒れたら、雅樹さんに呆れられてしまいそう……)

食洗器を稼働させたら、玄関に物音がした。

続いてバタンとガタンと、落ち着きのない音がして、雅樹がリビングのドアを開け、入ってくる。

「お帰りなさい……」

友里は壁掛け時計に振り向いた。

二十時十分。

雅樹がこんなに早く帰宅するのは、結婚以来初めてだ。

わかりづらいが焦り顔にも見えて、友里はキッチンから問う。

「今日は急患もあってお忙しいかと思っていたんですけど……?」

黒いVネックのTシャツに黒いズボン姿の雅樹が、アイランドキッチンの向かいに立ち、眉尻を下げた。

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