エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
「私だけのためじゃないというなら、お願いします」

友里が頭を下げれば、雅樹の涼しげな目が細められた。

「友里は気を使いすぎる。もっとわがままになっていいんだよ。俺にできることはなんでもするから」

優しい言葉と微笑みに、友里の胸が熱くなる。

けれども大切にされていると感じた直後に、また不安に襲われた。

(もし私がお父さんの娘じゃなかったなら、微笑みかけてはくれないのかな……)

「ご馳走様。美味しかった」

「あ……はい。お粗末様でした」

食器を片付けに立ち上がった雅樹は、友里の不安には少しも気づいていない様子。

この幸せな時間を続けていいのかどうか……決断の日まで二週間を切ったというのに、決められない友里であった。



八月も暑い日が続いている。

出勤した友里はまず更衣室で制服に着替えをする。

隣のロッカーを開けているのは真由美で、ブラウスのボタンをしめながら、友里に「大丈夫?」と聞いてきた。

友里の陰口を叩く人は、真由美が所属する消化器内科にもいるらしく、こうして心配してくれる。

ここは医師以外の女性従業員、全員が使っている更衣室。

< 73 / 121 >

この作品をシェア

pagetop