エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
これまでは無視されるか、ヒソヒソ囁かれていたというのに、友里の挨拶に申し送り中の看護師までが「友里ちゃんお疲れ様」と返事をしてくれた。

それが嬉しくて、友里は泣きそうになる。

(雅樹さんが注意してくれたお陰よね。早くお礼を言いたい。華衣先生の嫌がらせを見破って助けてくれたことにも、まだお礼を言えていない……)

その機会はすぐに訪れる。

病棟を出て階段を下りようとしたら、雅樹が上ってきたのだ。

友里はパッと笑顔になる。

「雅樹さん!」

声をかけたら、唇に人差し指をあてられた。

「ついて来て」と連れていかれたのは、半年ほど前にも入った三階、手術部の家族控室。

ふたりきりになって、友里は頭を下げた。

「雅樹さん、今日はありがとうございました」

「いや、俺のせいで友里が苦しんだのに、お礼を言われるのは筋違いだ」

「え……?」

ひと月ほど前の医局で、外科医長との雑談を華衣に聞かれてしまったのだと、雅樹に打ち明けられた。

「結婚を知られたのは俺の落ち度だ」

顔をしかめて後悔する雅樹に、友里は首を横に振った。

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