エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
諦めのため息をついた華衣が、看護師長に連れられて病棟を出ていくと、さらにざわついた。

被害者であるというのに、友里に向けられるのは相変わらず冷たい視線。

(雅樹さんもいるのに。今だけは陰口をやめて……)

友里は雅樹の陰で、耳を塞ぎたい心境でいる。

雅樹に迷惑がかかることを心配していたら、聞いたことのない雅樹の鋭い声が響いた。

「理事長の娘だから、俺の妻だから、なんだと言うんだ? 仕事に関係ないだろ。共に働く仲間を追い詰めるのはやめてくれ」

途端にステーション内が静まり返る。

友里に嫉妬の目を向けていた者たちは、一様にばつが悪そうな顔をしていた。

雅樹は嘆息してから振り向いて、友里にだけ優しく微笑んだ。

友里はホッと胸を撫でおろす。

(私のことを迷惑には思っていないみたい。よかった……)



病棟業務は待ってはくれない。

医師も看護師もクラークも、何事もなかったかのように通常業務に戻り、時刻は十七時半。

友里の退勤時間になる。

「お疲れさまでした。お先に失礼します」

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