【コミカライズ化!7月28日配信!】5時からヒロイン
「会長夫妻がお帰りになられるそうですよ」
「ありがとうございます」
メイク直しを終えていた私は、すぐに立ち上がって個室へと向かった。斎藤さんもまた、車の準備のため、駐車場へ向かう。
「水越でございます」
「入りなさい」
襖の外で声を掛けると、社長から返答がある。
「失礼いたします」
襖を開け一礼すると、サクラ会長がにこやかに出迎える。満足な会食だったようだ。
「ああ、水越さん」
「会長、お食事はいかがでございましたか?」
「ああ、相変わらず最高だったよ。それに、テーブル席にしてくれたのは、水越さんだろう?いつも水越さんの気遣いには頭が下がるよ。ありがとう」
「ええ、本当に……お付き合いされている方は、羨ましいですわ。ありがとう、水越秘書」
奥様が私の手を握って、祖母のように手をなでる。しわくちゃの手だけど、とても柔らかくて温かい。
「わたくしに出来ます、最大限の事をいたしたまでです。お褒めの言葉をいただくまでもございませんが、大変うれしく思います」
「五代社長、水越さんが悪い男につかまらないように頼みますよ」
「畏まりました」
褒められて嫌な気持ちはしないが、架空の彼氏が出来てしまったことはとても心苦しい。いや、少し残念。嘘のせいで、いい男が去って行ったのだから。この埋め合わせはして頂きますからね。
門を出ると、会長夫妻の車は、表通りに横付けされており、運転手がドアを開けて待つ。
「社長、これを」
私は土産の袋を社長に渡す。
「会長、お持ち帰り下さい。今日という楽しい時間の記念に」
「おお、社長いつも悪いね、ありがとう」
うれしそうに土産を受け取ると、窓を開けて手を振る。私と社長は、車の姿が見えなくなるまで見送った。
「社長、銀座へ急ぎませんと」
余程会話が弾んだようで、出発する予定時刻を少し過ぎてしまっていた。
「分かった」
分刻みと言ってもいい社長のスケジュールは、売れている芸能人並みに埋まっている。それに合わせて体調を管理するのも大変だろうが、生活感が全く感じられない社長がどうしているのか、常日頃興味があった。
仕事のパートナーとして過ごして来たが、誕生日までも素通りだ。社長の誕生日が近づくと、デパートに行ってプレゼントを探し歩くが、結局は贈らず仕舞いで、「おめでとうございます」の一言で終わっていた。秘書と社長の恋愛なんて、所詮ドラマの中だけなんだ。あの夜の出来事が、私を期待させてしまっている。
「玉の輿課」の歴史も、私で途絶えるだろう。本当にすみません。
渋滞で予定の時刻をさらに過ぎてしまっていた。あとの調整のことを考え、胃が痛い。
食後に薬を飲んだばかりだと言うのに、全く効かない。ファイブスター製薬は何をやっているのか、全く。
やっと銀座に着くと、手土産として用意したチョコレートを社長に持たせる。
「花は?」
何処へ行くにも、花を持参している社長が聞いた。
「個展を開く方は、花を嫌う方が多いと聞きます。自身の絵にそぐわない、花に持っていかれてしまうと言った理由でございます。差し出がましいとは思いましたが、会長がお好きだったチョコレートをご用意いたしました」
「分かった」
納得できる答えであれば、社長は何も言わない。入り口で社長と別れると、私は自動販売機で水を買う。常温の水が飲みたかったが、仕方なく冷たい水を飲んだ。
「ありがとうございます」
メイク直しを終えていた私は、すぐに立ち上がって個室へと向かった。斎藤さんもまた、車の準備のため、駐車場へ向かう。
「水越でございます」
「入りなさい」
襖の外で声を掛けると、社長から返答がある。
「失礼いたします」
襖を開け一礼すると、サクラ会長がにこやかに出迎える。満足な会食だったようだ。
「ああ、水越さん」
「会長、お食事はいかがでございましたか?」
「ああ、相変わらず最高だったよ。それに、テーブル席にしてくれたのは、水越さんだろう?いつも水越さんの気遣いには頭が下がるよ。ありがとう」
「ええ、本当に……お付き合いされている方は、羨ましいですわ。ありがとう、水越秘書」
奥様が私の手を握って、祖母のように手をなでる。しわくちゃの手だけど、とても柔らかくて温かい。
「わたくしに出来ます、最大限の事をいたしたまでです。お褒めの言葉をいただくまでもございませんが、大変うれしく思います」
「五代社長、水越さんが悪い男につかまらないように頼みますよ」
「畏まりました」
褒められて嫌な気持ちはしないが、架空の彼氏が出来てしまったことはとても心苦しい。いや、少し残念。嘘のせいで、いい男が去って行ったのだから。この埋め合わせはして頂きますからね。
門を出ると、会長夫妻の車は、表通りに横付けされており、運転手がドアを開けて待つ。
「社長、これを」
私は土産の袋を社長に渡す。
「会長、お持ち帰り下さい。今日という楽しい時間の記念に」
「おお、社長いつも悪いね、ありがとう」
うれしそうに土産を受け取ると、窓を開けて手を振る。私と社長は、車の姿が見えなくなるまで見送った。
「社長、銀座へ急ぎませんと」
余程会話が弾んだようで、出発する予定時刻を少し過ぎてしまっていた。
「分かった」
分刻みと言ってもいい社長のスケジュールは、売れている芸能人並みに埋まっている。それに合わせて体調を管理するのも大変だろうが、生活感が全く感じられない社長がどうしているのか、常日頃興味があった。
仕事のパートナーとして過ごして来たが、誕生日までも素通りだ。社長の誕生日が近づくと、デパートに行ってプレゼントを探し歩くが、結局は贈らず仕舞いで、「おめでとうございます」の一言で終わっていた。秘書と社長の恋愛なんて、所詮ドラマの中だけなんだ。あの夜の出来事が、私を期待させてしまっている。
「玉の輿課」の歴史も、私で途絶えるだろう。本当にすみません。
渋滞で予定の時刻をさらに過ぎてしまっていた。あとの調整のことを考え、胃が痛い。
食後に薬を飲んだばかりだと言うのに、全く効かない。ファイブスター製薬は何をやっているのか、全く。
やっと銀座に着くと、手土産として用意したチョコレートを社長に持たせる。
「花は?」
何処へ行くにも、花を持参している社長が聞いた。
「個展を開く方は、花を嫌う方が多いと聞きます。自身の絵にそぐわない、花に持っていかれてしまうと言った理由でございます。差し出がましいとは思いましたが、会長がお好きだったチョコレートをご用意いたしました」
「分かった」
納得できる答えであれば、社長は何も言わない。入り口で社長と別れると、私は自動販売機で水を買う。常温の水が飲みたかったが、仕方なく冷たい水を飲んだ。