蒼月の約束
「いいから、そういうこと言わなくて」

妹に負けじと、おかずに手を出しながら朱音は言った。

「仕事のしすぎじゃないのか?」

お父さんは心配そうに片方の眉を上げた。

「お姉ちゃん、容量がいい方じゃないから、仕事が終わらないんでしょ」

「余計なお世話」

あながち間違いでもないから、言いかえせない。

「それでそんな太っちゃったの?」

お母さんが哀れみのまなざしを向けた。

「まあ、妹の分も生活費を稼いでいるものですから」

ストレス溜まっても一生懸命働かないと。
と言葉の端に棘を含む言い方をして返してみるも、天然が混じっているお母さんと妹には通じない。

「でも、最近いいことあったみたいなんだ、お姉ちゃん」

「え、何かしら?」

「職場に好きな人がいるんだって」

「ちょっと、亜里沙」

「あら!誰なの、朱音?」

止めようとするが、新しいおもちゃを見つけたかのように喜ぶ妹は、目の前に座っているお母さんに聞こえるように、身を前に乗り出した。

「営業課の、高森って人。お姉ちゃんと同い年なんだって」

「なんで、高森さんのこと知っているのよ…」

「で、どうなの?その人とは?」

お母さんは楽しそうだ。

「こんなお姉ちゃんを相手にすると思う?」

「言ってくれるね」

「同僚の人たちとも全然打ち解けてないじゃん」

一度職場に来ただけで。

洞察力がある妹が時々恐ろしく感じることがある。


しかし、その恐怖のさらに上を行くおばあちゃんが、突然、ガチャンと茶碗を下におろした。
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