蒼月の約束

「大丈夫ですか?」

手つかずのお皿を、見つめたままのエルミアに向かってリーシャが言った。

「…うん」

心配をかけまいと食べ物を口にするが、味が全く分からない。

何を食べたのか、どうやって呑み込んだのか分からぬまま、エルミアは自室へと戻って行った。


「今日はもうお休みください」


明日が蒼月であることを、リーシャたちは知っているようだ。


しかし、それについては何も触れず、エルミアを一人にしておいてくれた。


暗やみの中で、月の光が、窓からエルミアの手元に差し込む。


帰りたい。
早く、家族に会いたい。

そう思っていたはずなのに、王子の言葉で、帰りたくない気持ちの方に大きく天秤が傾いてしまった。


このまま王子やリーシャたちとお別れするのかと思うと胸が切なくて、とうとうせき止めていた思いがあふれ出てしまった。



月明りの中でひたすら静かに泣いた。





私はまだ、帰る気持ちの準備が出来ていないんだ。

この世界を離れる心の準備が…。




エルミアの涙は、月が沈み太陽が昇るまで止まることはなかった。

< 119 / 316 >

この作品をシェア

pagetop