蒼月の約束
「すごい!本物のペガサスだ!」
興奮のあまり飛び跳ねているエルミアを笑いながら、王子は指笛で何やら、奇怪なリズムを刻んだ。
数頭のペガサスがその音に気づき、飛ぶ方向を変えて、二人のいるベランダの方へやってきた。
全部で10頭くらいはいると思う。
みんな真っ白なのに、一頭だけ羽根の一部が金色をしているペガサスがいた。
王子はベランダの柵の上にふわりと立ったかと思うと、そのペガサスに近寄り、頭を撫でながら何やら声をかけていた。
王子とペガサスが一緒にいるのは、それだけで絵になる。
まるで自分がおとぎ話の中に迷い込んだ感覚に襲われた。
こんなにも神々しい生物たちを人生で見たことがあるだろうか…。
圧倒されるほど美しい光景に、言葉を失ったまま見つめるエルミア。
そして、不思議とペガサスが頷いたように見えた時には、王子の手には金色の羽根が握られていた。
「ありがとう」
王子がそう言うと、ペガサスたちは、その言葉を合図に、羽音を一つも立てずにその場から優雅に飛び去った。
その神秘的な後ろ姿をしばらく放心状態でエルミアは見つめる。
「ミア」
隣で王子が名前を呼び、我に返った時にはすでに、金色の粉雪は止み、いつものサラサラとした白い雪に戻っていた。
「あんな荘厳な生き物が存在するんですね…」
まだ夢見心地でエルミアは呟く。
それから王子の手の羽根を見つめて、笑顔を作った。
「これで、二つ目だね」
そしてまた外の景色に視線を向け、黄金の雪が止んでしまったことを残念がっていると、また王子が名前を呼んだ。
「ミア」
「はい、何です…」
そこでエルミアは口を閉じた。
正確には、王子の口によって塞がれていた。
長い時間に思われた。
エルミアの思考が停止する。
「王子!」
部屋に入ってきたグウェンの焦った声がしなければ、ずっと息を止めていただろう。