蒼月の約束
プロローグ
空が高く見渡せる石造りの神殿で、静かに一人たたずむ女性がいた。
頭上できれいに縛られている漆黒の髪は、床に付きそうなほど長く、月明りで照らされた痩せこけた顔は、青白く輝いている。
一見普通の女性に見えるが、耳は鋭くとがり、見開かれた瞳は真っ赤に燃えていた。
「もうすぐか…」
声は夜空にかき消されそうなほど、か細く弱々しい。
突然、ドクンと体中の血液が波打ち、女性はその場に崩れ落ちた。
荒く肩で呼吸をしながら、「時間がない」と小さく呟く。
その時、階段の下から大きな声が響いた。
「女王陛下!」
数人の階段をかけあがる靴音と、何かを引きずるような重い金属音が響く。
「間に合ったか…」
陛下と呼ばれた女性は、未だ苦しそうに息をしたまま、早足で近づいた男性に抱えあげられる。
「私を水鏡へ」
静かに、しかし威厳を保ったまま女王は言った。
「はっ」
女王の三倍はあるだろう体格の男性は、すぐに言われた通りに動いた。
壊れ物を大事に抱えるかのように女王を石段の頂上へと連れて行く。