蒼月の約束
朱音は、びしょぬれのまま別室へと連れて行かれた。
両手は、タオルできつく縛られ背中に回されている。
そして先ほど掴んでしまった腕の男の前に、膝をつかされていた。もはや裸ではなく、シルクのように滑らかで真っ白のローブに、金色と赤の刺繍が施された帯を締め、金の装飾が目立つ椅子に座っている。
怖い顔をした男性を真横に複数人も従えていることから、おそらく相当位の高い人物だと理解した。
そして、自分がどんな悪いタイミングで、悪い場所に出てきたのかも、理解できた。
両足は自由なものの、横を向けば槍の先端が光り、背中にも数人の視線が感じられる。
下手に動こうものなら、すぐにその槍で刺されるだろう。
朱音は恐怖でガタガタ震える体をどうにか抑えようと必死だった。
自分から滴る水で下に敷かれた赤い絨毯に、どんどん水たまりを作っていく。
顎の下にも上を向かせるよう、槍を構えられていたため、長い金髪を携えた椅子に座っている男と目を合わせないようにすることは不可能だった。
そのすぐ横に立っている、同じ金髪をした男が朱音に向かって怒鳴っているが、何を言っているのか全く見当もつかない。
英語でもないし、大学の時に少し勉強したフランス語でもない。
男の声がどんどん荒く、大きくなっていくのは、自分が黙っているから。
それは分かっていても、何一つ聞き取れる言葉がない。
理解できる言葉がない。
男が一つ言うごとに、隣の槍が頬に触れる。
恐ろしいほどひんやりした感触に、泣いても意味がないと分かっていても、涙を止めることが出来なかった。