蒼月の約束
「ああ、そのままで」

誰かを呼ぼうとしたが、さっきまでいたサーシャとナターシャの姿が見えない。

「れ、レ―ヴ…」

顔を動かさないようにしながらエルミアは言った。

両手が震え始めるのが分かった。

「落ち着いて。ぼくは君を傷つけたりしないから」

「で、でも王子を…!」

「だから落ち着いてってば」

少しイライラしたように幼い声は言った。

「感情の起伏は、女王の思うつぼだよ」

「なんで…?」

手を握りしめながら、突然、朦朧とし始めた意識と戦う。

「僕は命令に従っただけ。個人的な恨みはないよ」

声色からして嘘をついているのが見え見えだ。

「何を…」

エルミアが何か言おうとすると、レ―ヴはそれを遮った。

「雑談をしに来たんじゃない。よく聞いて。最近見る君のその予知夢、それは必ず現実になる」

一気にエルミアの顔から血の気が引いた。

「彼らを護りたかったら、僕と一緒に女王の城に来るんだ」

「や、やっぱり、女王の味方なの…?」

手の平に自分の爪を喰いこませながら、飛んでいきそうな意識に抗う。

「君に選択肢はない。大切なお友達を、セイレーンと同じ目に遭わせたくないならね」

「な…」

口を開いた瞬間、首の後ろに微かな衝撃が走り、エルミアはそのままカクンと倒れた。


深い眠りにつく手前で、レ―ヴの「今夜また、ここで会おう」という言葉だけが最後まで響いていた。



< 228 / 316 >

この作品をシェア

pagetop