蒼月の約束
第二十七話
その日から、宮殿内では王子が奏でる笛の音色が響き渡ることが多くなった。
エルフたちも音楽が鳴っているのは嬉しいようで、つかの間の安堵感が流れていた。
音色には気分が上がる効果があるのか、今まで以上に明るい雰囲気が王宮を包んでいた。
その一方で、唯一一人だけ体調を崩したままの人物がいた。
「ミアさま…」
ベッドの傍らで、リーシャが心配そうに呟いた。
「大丈夫だから、王子には言わないで…」
肩で息をしながらエルミアは体を起こし、サーシャが持っているお茶を受け取った。
「まだ悪夢を見ますか?」
エルミアはゆっくりと飲みながら、呼吸を整える。
「日に日に夢が鮮明になっていくの…」
「再度、彼らの様子を見に行きましょうか?」
リーシャがそう尋ねると、エルミアは青い顔をしたまま頷いた。
「お願い…」
リーシャはすぐにその場を離れた。
エルミアは重い体を起こし、サーシャに言った。
「風に当たりたい…」
王子に見つからないように、というエルミアの要望で人目に付きにくいお気に入りの噴水の場所に来た。
ベンチに座り、空を見上げふっと息を漏らす。
恐ろしいほど青く澄み渡る空が目に沁みる。
エルミアはふと瞳を閉じた。
「女王の術中にはまったね」
いきなり後ろから声がしてエルミアは目を開いた。