蒼月の約束

目の前で立ち止まった不気味な生き物は、近くで見るとより一層、巨大で恐ろしかった。

エルミアはまたもや体が震え出すのが分かった。

「ああ、そいつが予言の娘か」

巨大な生き物は愉快そうに目を細めた。

「女王陛下に渡すか?」

「いや、地下牢に入れておいて」

エルミアはレ―ヴの言葉に、思わず振り向いた。

「や、約束が違う…!」

エルミアは精一杯、喉から声をひねり出した。

それでも声はかすれて、小さい。

レ―ヴは聞こえたのか聞こえないのか、それを無視して大男にエルミアを差し出した。
レ―ヴの持ち方とは全く違う、まるで子供がぬいぐるみをぞんざいに扱う時ようにエルミアの腕を握る大男。

あまりの痛さに顔をしかめるが、それよりもレ―ヴの裏切りの方が頭に来ていた。

「女王に、会わせるって…。私の呪いを解くって約束したじゃない!」

暑さで頭は朦朧とし、喉はカラカラ、掴まれている腕は、痺れるほど痛い。

だけど今はレ―ヴに訴えるしかない。

レ―ヴは今までに見たとこのない程、冷ややかな瞳をエルミアに向けた。

「君の呪いを解く?女王が?なぜ?」

見下すような突き放した物言いにエルミアは背中がひやっとした。

「君ごときが、すぐさま女王に謁見出来ると思わないで」

そして、大男に視線を移していった。

「何か食べ物を用意してあげて。死なれたら困るでしょ」

「はいよ」

耳障りな音を響かせながら、大男は笑って答えた。レ―ヴは踵を返し、その場から離れた。

「ま、待って…!」

何度後ろから呼んでも、レ―ヴは振り返らなかった。

「あいつが何を約束したか知らんが」

乱暴な手つきで、エルミアを引きずるように歩きながら大男は愉快そうに話している。

「レ―ヴは女王陛下が一番信頼している部下だ。最近入ってきたばかりとは言え、あそこまで忠実な奴はいねえな」


…騙された。

いきなり頭をハンマーで殴られたような気分だった。

元からレ―ヴは私を助けるつもりはなかったんだ。

全ては女王のために。

熱い空気が体にまとわりついて気持ち悪い。

息が吸いづらいせいか頭はガンガンし、目まいがする。

体中が脈打ち、心臓がいつもの倍以上働いている。



みんな…来ちゃだめ…。


更なる不安が押し寄せて、呑み込まれそうになる。


もう嫌だ、辛い。

早く楽になりたい。

この心労から、一刻も早く。


エルミアは引きずられるがままに、力を全て大男に預けた。


もう、どうなってもいい…
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