蒼月の約束
そう聞こえたかと思うと、いきなり鏡が光り、その場が大きく揺れた。

皆が立てないほどに地響きは続き、塔がガラガラと音を立てて崩れ始めた。

朱音も膝をつき、近くにあった木にしがみついた。

突然の揺れで一瞬自由の身になった王子は、その瞬間を見逃さなかった。

女王の手先から逃げ出し、朱音を抱きかかえた。

「大丈夫か?」

スカイブルーの瞳が朱音を映し出す。

朱音は頷くのがやっとだった。

解放されたグウェンやリーシャたちは捕まっていた他のエルフたちの救出に向かう。

砂埃が立ち込めるその中で、鏡だけは無傷のままそこに直立していた。

ふと、その時突然、春風のように暖かく耳に心地よい音が辺りに響き渡り、一人の女性が鏡からすっと現れた。

光輝く金色の髪が風もないのに揺らめいている。

手足の長い華奢な体に纏った白い衣が、鏡から発せられる光に反射し、キラキラと幻想的に(きら)めいていた。

まるで宝石のように透き通る白い肌に、完璧なまでに整った顔。

そして大きく丸い瞳が開かれた。

初めて見るエルフのはずなのに、なぜか昔から知っているような懐かしさを感じた。

「エルミア…」

真っ先にその神秘的なエルフに反応したのは、王子だった。

「エルミア!」

目が釘付けとはこのことだろう。

王子の表情を見て、朱音の胸の奥が締め付けられるように痛んだ。

「エルミアさま…?」

グウェンやリーシャ、そして他のエルフたちも次々と反応する。

「エルミア…だと」

苦々しい顔をした女王がまたもや呪文を唱えたが、エルミアの放つ光に抑え込まれた。
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