蒼月の約束
少女がその空気に耐えかね、本を見ようとしたとき兄は口を開いた。

「その本…。もしかして、お前ソー族か?」

純粋な瞳で少女は惜しげもなく頷く。

ダヤンは深く重いため息を吐いた。

「いいか、その名は一切口に出すな。その本も読むな。俺が預かる」

少女が驚きで目を見開いた。

「いやだ!」

「言うことを聞け!」

この時初めて兄が怒鳴った。
何重もの深い皺が眉間に刻まれ興奮で顔は紅潮している。いつも太陽のように笑っていた兄が、こんなに顕著に怒るのは初めてだった。少女は反抗せずただ本を渡すしかなかった。



兄との約束は、本を探さない。読まない。だった。

本の話題さえ出さなければ兄は不機嫌になることも、怒鳴ることもない。


それから数年が経ち、本のことなど日が経つにつれて忘れていった。
両親を失ってからは、唯一の家族である兄との時間が、少女の中で一番大切であり幸福な時間だった。それを壊すくらいなら、両親の形見である本などなくても大丈夫だ。

ずっとそう思っていた。

しかしある日、偶然にも掃除中に兄が隠していた本を見つけてしまった。

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