蒼月の約束
女王は、女の鎖を受け取ったあと、階段を一番上まで上るよう指示した。

この状況下で命令に逆らえるはずがない女は、両腕と口を縛られたまま、恐怖で震える足を一つずつ階段に乗せて昇って行く。

足下には巨大な水盆があるだけで、これから何が起こるのか全く見当がつかない。

その場に座りこみ、隣に立った女王に救いのまなざしを向けるが、女王の冷徹な目は、一度も女と合うことはなかった。

女王は、床に跪き、何かを呟き始める。

最初は何か呪文のように聞こえたが、どこか子守歌のようにも聞こえる。

不思議なその音色に、その場にいた全員が少しずつトランス状態になり始めた。
しかし、下から響くゴゴゴゴという地を揺るがす音で、一斉に我に返った。

なんと、水が動いている。

だんだんとせりあがって来る水に恐怖を感じた。
さっきまで静かに、ただ風に揺られていた水がどんどん怪物のように変化し始める。
女王の呪文は止まらない。

ついに、腹の底に響くドンっという大きな音がしたかと思うと、突然石段と共に、女は水に飲みこまれた。

まるで生き物のように力を得た水が水盆からあふれ出し、辺り一面に流れ出す。

「女王陛下!」

大男が、慌てて女王に駆け寄り、意識を失い倒れている女王をかかえて急いで小さな神殿を駆け下りていく。

その後を数人の部下たちが追いかけるようにして、留まることを知らない洪水から必死に逃れる。




その光景を見ていたのは、夜空に薄気味に輝く、ただ蒼く光る月だけだった。










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