蒼月の約束
元モデルをやっていたお母さんを親に持っているにも関わらず、何一つ受け継いでいないのは朱音の外見を見れば一目瞭然だった。

低い身長に、ストレス太りしたぽっちゃり体型。

パソコン仕事が長いせいで悪くなった視力には、大きなメガネが必需品だ。
今は、ストレートパーマを当てているが、雨になるとせっかくまっすぐにした髪がすぐに巻かれてしまう天然パーマも持ち合わせている。

「あ、プリンだ!」

居間ですでにくつろいでいる妹が、母親の要素を全て兼ね備えていた。

170㎝近い身長に、すらりとした長い脚。綺麗なストレートの髪は、染めて金髪に近い茶色に染めている。
二重のぱっちりした瞳に、長いまつげ、そして高い鼻。

どのパーツを取っても、妹と似ている場所なんか一つもない。

街で歩いていても、姉妹に見られることは一度もなく、妹がナンパされるところを助け出した記憶しかない。


「手洗ったの?」

もう何年も使っていない自分の部屋に行き、荷物を置きながら、既に居間で寝転がっている亜里沙に厳しく言う。

「お母さん、手拭き~」

自分は動かずに、誰かを動かすのが上手い妹は本当に人生楽していると思う。

「自分で洗面所に行きなさいよ」

「いいのよ、朱音」

お母さんは、朱音をなだめながら亜里沙に手拭きを渡す。

「そうやって甘やかすから…」

妹は本当に凄い。

人を上手に動かす上、その動かした相手の気分も損ねないのだから。
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