蒼月の約束
「ミアさま」
エルミアが長いこと座っているので、リーシャがとうとう口を開いた。
「何かあったのですよね?」
そして、エルミアを優しく抱きしめた。
「私でよければ聞きますから」
リーシャからも、王子とはまた違った甘い香りが漂う。
優しい声と、温かい感触に、とうとうエルミアは涙腺が崩壊した。
「怖くて…」
リーシャが背中をさする。
「ここに来るまでの記憶が、気づかない内に消えているの。
私が何をしていたのか、誰を好きだったのか、その感覚は残っているのに全く思い出せないの。
このまま、全て記憶が消えると思うと…
いても立ってもいられなくて…」
リーシャはただ黙って聞いている。
「早くしないと、私、自分が誰かも分からなくなっちゃうんじゃないかって、怖くて、怖くて…」
両手を強く握りしめて、エルミアは途切れ途切れに、不安を口から吐き出す。
「どうしよう。このまま、記憶がなくなったら…」
声にするたびに、恐怖で頭がおかしくなりそうだった。
「大事なことも、思い出せなくなったら…私…」
「大丈夫です」
リーシャがしっかりした口調で言った。
「ミアさまを必ず帰すと、王子がお約束して下さいました。絶対に大丈夫です」
何の根拠もないのに、リーシャの揺るがない力強い物言いに、エルミアは少し心が軽くなったのを感じた。
「私たちが、全力でミアさまを送り届けますから」
「…うん」
「だから、心配しないで下さい」