幻想館-白雪姫-

伝道

由希奈が少しだけ身を乗り出し時だった。

背後から腕を掴まれた。


誰?


由希奈は後ろを振り返ったが、勿論誰も居ない・・・。



「フッ・・・」


ため息にも似たようなおかしさ。


今さら私は何を考えているのかしら・・・。


もう・・・生きている意味もないし、その資格もない。


だから今さら・・・。



そんな風に自分を追い込む事で、死への恐怖を振り払おうとしていた。



・・・まって・・・・・。



耳元で囁く声。



それはとても愛らしい響きであった。



「私の話をきいて」



今度ははっきりとわかる声。



由希奈のガウンの袖を引っ張る少女がいた。



少女はにこにこしながら由希奈の顔をじっと見つめていた。



「とても気持ちがいいね」


由希奈は不思議そうな顔をした。



「あなたはどうしてここにいるの?」



「こんな端っこにいたら落ちちゃうよ」



少女の一言一言の重みが、由希奈の心にズシンと響いた。



「死んじゃダメ!」



少女の表情は悲しみに変わる。



「大丈夫だから・・・きっと」



「でも・・・私は・・・」


また涙が流れてきた


「私は大切な・・・大切な赤ちゃんを・・・死なせて・・・しまった」


少女は由希奈の手をギュッと握った。
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