幻想館-白雪姫-
男は美奈の頭がおかしくなったのだと思った。


「わかりました。では彼女の意識が回復したら事情聴取しますが、示談の方向に話を持っていきます」


「ちょっと待てよ!有り得ないだろ!」



如月はこの思いやりのかけらもない男を異空間へ飛ばしたいと思った。


元を辿れば、この男が悪いのだ。
男の思いやりのなさが彼女を悲劇へと追い込んだのだ。


「私は酷い女でした。自分が醜くなるのを怖れて・・・美しいものだけの存在しか認めていなかった愚かさ・・・」



「それに気づいただけでも・・・と言う所ですか」


如月は人間としての彼女の考えを得ようとした。



「そう言えば、あなたが病室に置いていた鏡ですが、どこかに紛失してしまいました」


「いえ、もうあの鏡は必要ありません」


美奈はきっぱりと答えた



・・・彼女はもう大丈夫か・・・。


如月は空(くう)を見つめた。


誰かに合図を送るかのように、如月は左手を一度だけ回した。


「あの・・・あの人は?」


「手術が終われば連絡が入ります。後は警察に任せて下さい」


美奈は微笑んだ。


つきものが落ちたかのように。


彼女の美しい心が戻ったのだ。



男は「チッ!」と舌打ちをして病室から出て行った






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