幻想館-白雪姫-
幾つかの病室はドアが開いていた。


由希奈はなるべく、そちらの方を見ないように壁際づたいに歩いた。


自分でもわかっていた・・・
いつまでもこのままの状態でいてはいけないことを。



色白の頬は血の気を失っているかのように、更に白かった。



やわらかな黒髪が静かに揺れた。


やがて、ある病室の前まで来ると大きな話し声が中から聞こえてきた。



由希奈はドアの前にぴたりと体を寄せ、耳を澄ました。




「美奈からメールがきて驚いたよ」


男性の声だった。


「ホントは内緒にしとこうって思ったけど、なんか心細くなっちゃって・・・」


少し甘え気味な声。


「でも、子供をおろしたからなんかスッキリしちゃった!」



その言葉に由希奈はびくんとした。


今の彼女には、ドアの向こうから聞こえる無神経な会話に全身から憤りがこみ上げてきたのだ。



由希奈はドアノブに手をかけ、無言のまま中へとどんどん入って行った。



声の主はとても綺麗な顔立ちをしていた

だがそれは見せかけだけのものだった。



子供を堕胎しても、ゴミ箱にポイと捨てるくらいの感覚なのだ。


小さな棚の上には鏡が置いてあり、その周りに化粧品が並べてある。



由希奈は女性の所に行く間に果物ナイフがあるのに気づき、それをサッと取った。


そして、次の瞬間!




女性の下腹部が赤く染まった。
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