ここではないどこか

 俺が扉を開けると同時に待ってましたと言わんばかりの勢いの姉さんが「おかえり」と出迎えた。心なしかソワソワとしている姉さんを見て、ステージデビューを心配してくれていたのだと心が温かくなる。

「ただいま」
「デビューおめでとう」

 どうして姉さんが泣きそうなの。その表情に愛しさが募る。おいで、と腕を広げれば躊躇いなく飛び込んできた姉さんを強く抱きしめた。
 髪に顔をうずめてすんすんと鼻を鳴らせば「やだ、仕事終わりで汗臭いと思うよ」と身を捩らす。

「大丈夫。臭くないよ。ムラムラする」

 合わさった視線に笑顔が溢れた。

「そういえば、送ったメッセージ見た?」
「見たよ、仁さんのところで祝勝会するからご飯いらないってやつでしょ?返事したけど」
「あ、ほんと?それ見てないわ、ごめん」

 大丈夫だよ、という意味を込めて姉さんが頷く。

「いや、それなんだけどさ、姉さんも一緒にってみんなが誘ってくれてて」
「え……嬉しいけど、私邪魔じゃない?せっかくの日なのに」
「まぁ、俺じゃなくてみんなが言い出したことだから。でも無理にとは言わないけど……どうする?」
「それなら、お言葉に甘えようかな」

 そう言って喜びに持ち上がった姉さんの頬にキスをした。これは独占欲だ。メンバーの純粋な好意と、それに純粋に応える姉さんに対する場違いな醜い嫉妬だ。
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