ここではないどこか

 今回の合コンはかなり成功の部類に入るだろう。だってみんな割とベロベロに酔ってる。楽しい話と美味しい料理がお酒をすすめたようだ。
 そろそろ退店しないと……と時間を気にしながら峯田さんにアイコンタクトを送った。分かってるのか分かっていないのか、彼女は頭を縦に大きく揺らす。
 それは了解ってことでいいのね?とりあえずお手洗いに行って帰ってきてもまだこの状態なら、私が言い出そう。

 立った瞬間に気づいた。私も結構酔ってるかも……。少しふらついた足元を立て直そうとすると、河島さんが咄嗟に支えてくれた。

「あ、ありがと」
「大丈夫?結構酔ってるね、お手洗いついて行こうか?」
「大丈夫だよ。子供じゃないんだから」

 私の肩に触れたままになっている河島さんの手を解き、私は歩き出した。

 お手洗いの鏡に映った顔を見る。上気したように赤くなった頬と潤んだ瞳が目に入り、今一度自分を叱咤した。
 こんな風に酔ってる場合じゃないでしょ……!早く帰ろう。帰って瑞樹くんに会いたい。
 手を洗った冷たい水と自分の顔のお陰で少し酔いが覚めたようだ。

 お手洗いから通路に続く扉を開けて、目に入った人物にぎょっとする。

「……待ち伏せ?」

 しゃがみ込んでいた河島さんが私の声に反応して顔を上げる。

「そう、待ち伏せ。……気分悪い……」
「え!大丈夫ですか?とりあえずここは邪魔になりそうなんで、立ちましょ?」

 本気かそうではないかの判断がつかない軽口は無視して、私は河島さんの腕を掴んで立たせようとした。
 その瞬間だ。河島さんの手が私の腕を引く。必然的に近づいた距離に、やばい、と咄嗟に顔を横に逸らした。先程までお酒で惚けた顔をしていた河島さんが、私を下から覗き込むようにして見ている。
 キス、される……。

「ちょっと、やめてください」

 拒否の言葉と共に腕を押し戻すがビクともしない。

「なんで?すごい物欲しそうな顔してるよ」

 はぁ?誰が!?その言葉にイラついて河島の足を思いっきり踏んでやろうとした時だった。

「なにしてんの」

 頭上から降ってきた声の持ち主が、河島さんを力ずくで私から引き剥がした。

「いってぇ……。なにすんだ、よ……」

 河島は自分を押した男に食ってかかったが、目に入った男の圧に押され語尾を弱めた。

「それはこっちの台詞なんだけど。俺の姉さんになに無理矢理迫ってんの?」
「…へ?は?姉さん?え、弟!?なんで!?」

 それは私の方が聞きたいと思った。なんでここに透がいるんだろう。
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