ここではないどこか

7

 伏せた瞼が愛しい。丸いつむじが愛しい。

 私は透の正面に座ってそれらを見つめていた。こっちを向いてほしい。その鋭い三白眼で私を射抜いて愛を伝えてほしい。だけど、この艶のある瞼を、子供のようなつむじをずっと見ていたい。私の心の中は相反する気持ちがぐるぐると渦巻いていた。

「なに、見すぎ」

 スマホを触っていた透が私に視線を送り頬を緩めた。
 あーあ、もう少し見ていたかったな。だけどやっぱり、透の目はとても魅力的だ。

「えー?かわいいなぁって」
「……かっこいいの間違いじゃなくて?」
「うん。かわいい」

 透は「そう」と目を優しく細めた。

「ね、今日の晩ご飯どうする?」
「うーん、何食べたい?俺ラーメン食べたいんだけど」
「ラーメンいいね。……あ、配達してくれるところあるよ」

 私が話しながらスマホで検索をした画面を見せると、透もそれに目を通しながら「うまそう」
と相槌を打った。

「俺の足が完璧に治れば直接食べに行こう」
「うん!一緒にスーパーに食材買いにも行きたい」
「映画も観に行こう」
「夜のお散歩も」
「手を繋いで」
「うん……。2人で行きたいところに行って、したいこといっぱいしよう」

 私がそう言った途端に透に強く抱きしめられて、たくさんのキスが降ってきた。
 おでこ、瞼、こめかみ、頬、耳、透は私の形を確認するかのように丁寧に口付ける。
 そして、鼻先、唇。

「香澄、愛してる。それだけじゃ足りないほど、愛してる」

 もう一度唇へ。ちゅっと名残惜しむような音を残して、透の唇が離れた。

 私は幸せの形を初めて視認した。なんてことはない。幸せは透の形をしていたのだ。
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