ここではないどこか

 そう告げた私に透は驚いた顔を見せて、そのあとすぐに笑った。その笑顔はこの地獄のような部屋の中では不釣り合いなほど、ただただ幸せだけを集めたような微笑みだった。

「香澄まで……やめてちょうだい。あなたはいい子だったじゃない。素直で明るくて……お母さんの支えなのよ……。ねぇ、お父さんからも何か言ってよ」
「お母さん、この手を離して。私は透と一緒にいたいの」

 お母さんの涙に胸が痛くならないわけがない。だけど私は透といたい。透じゃないとダメなのだ。

「許さないわよ!そんな、実のきょうだいで愛し合うなんて、私は許さない……!」
「香澄、透。お前たちにはもっと別の幸せがあるだろう。どうしてこんな、誰も幸せにならないようなことをするんだ……」

 そんなことはもう、とうの昔から何百回、何千回と考えたのだ。それでも私が透を選んだ。透と生きていくことを選んだのだ。

「許さない?誰も幸せにならない?」

 透はさもおかしいと言うように声を上げで笑った。突然の笑い声に部屋がさらに異様な空気に包まれた。空気がぴんと張り裂けそうなほどに張り詰める。

「あんたたちに許してほしいだなんて思ってないし、香澄といられれば俺が幸せなんだよ。理解できないならもう放っておいて?」

 透の瞳はなにも映さない。光も、両親も、マネージャーも。ただ私だけだ。透の瞳は私しか映さない。
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