お姉さん、泣いて



「――――おねーさん、また会いましたね。良ければこれを使ってください」


どこか聞き覚えのある声に顔を上げると、そこには先週出会ったばかりの男子高校生がいて。


「自分で拭かないなら俺が拭いちゃいますよ。……なんちゃって」


年下男子がそんな冗談を言うから、ふふっと息が漏れた。
なんちゃってと言いながらも笑いを許可と捉えたのか、力みすぎないようにそっとタオルで触れてくる。


その様子に追加でじわじわと笑いが込み上げてきた。


そういえばこの子、前に私が同じことをしたときなぜか脱兎のごとく走り去ったっけ。
それが今日は逆転していて……って、これ、法にふれてないよね?


成人女性が未成年男子に雨粒を拭ってもらうって、セクハラにならないよね?
密着しても人工的な香りが全くしないところが高校生らしいな……なんて考えるのは大丈夫だよね?


さすがに職場の人に見られたらまずいかもしれない……。


「お姉さん、されるがままってのはちょっといただけないと思うんです」


社会の目を気にしつつも、結局はタオル越しに髪や頭を触れられて癒されていくのを感じ身を預けていると、上から小言が降ってきた。


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