色づいて、濁り、落ちていく
情が宿る
「若、着きました」
氷河の部下・金藤が、後部座席を開けながら言った。
「ありがと」

今日は親睦会。
……というのは表向きで、色々なブツや金の取引の為のパーティーだ。

氷河は生まれた時から強面の男達に囲まれ、ただ将来この裏の最大組織・鷹巣組を背負うことだけを目的に育てられた。
だから氷河には、友達というものが存在しない。
学生時代も常に一人で黙々と勉強をし、屋敷に帰れば男達に戦い方を学ぶ。

高校卒業と同時に、金藤を部下につけて仕事にかり出され、汚ないパーティーに連れて行かれる。

ただ、人形のように30年間過ごしてきた。

賢さ、強さ、躊躇いのなさ等…裏の世界に必要なモノばかり磨きがかかり、人としての“情”が全くない。
“感情”を教える人間が、一切いなかったのだ。

「若様。
父上には、くれぐれもよろしくお伝えください」
「……」
「あの…若様…?」
「なぜ?」
「は?」
「なぜ、この“僕が”貴様のお願いを聞かないとならない。よろしくお伝えは、僕ではなく自分で親父に言いに行け!」
「若様…」
「この“僕に”指図できるのは、親父だけ!
それ以外は許されない。
そんなことも、ここの連中はわからないのか?」

「若様~」
「あぁ、クラブの…」
「またお店、来てくださいね~」
「行かない」
「え?」
「え?って、もう行きたくない。親父に連れて行かれただけだから」

「若様、私と今度食事でも━━」
「行かない」
「え?食事くらい…」
「興味ない」
氷河は眉目秀麗で、外見がかなり整っていて美しい。
だから、氷河に寄ってくる女も多い。


そして━━
氷河はここで“運命”ともいえる相手に出逢う。


氷河に“情”が宿った時、様々な想いが混ざり合い二人は、黒く落ちていく。
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