色づいて、濁り、落ちていく
「え?」
「若ってさ。
純粋で、真面目で、いつも真っ直ぐで、真剣なんだ」
「はい。わかります」
「俺は若の兄貴みたいなもんでさ。
若が中1の時から高校卒業するまで教育係をしてた。
色んなことを教えた。
喧嘩、煙草、女の扱い方、美冬に言えないようなことも。
それをスポンジみたいに吸収するんだ。
しかも完璧に自分のモノにする。
でもオヤジに言われて“感情”だけは教えなかった。
俺は若の思春期にずっと傍にいたから、本当色んなことがあった。
その間に“この気持ちは何?”ってよく聞いてきてた。
でもそれを考えるなって、無理やり押し殺させて…
そしたらさ、ある日何も感じなくなったんだ。
“この気持ちは何?”って聞かなくなった」
「そうだったんですね…なんか、悲しい…」
「そうだな。オヤジは本当冷酷な人だから、若をロボットにしたかったんだと思う。自分の思い通りになる殺人兵器」
「お母様は?」
「若が生まれてすぐ亡くなった。中1まではオヤジの部下が教育係をしてたんだが、抗争中に亡くなったから俺が引き継いだんだ」
「氷河さん…」

美冬は目が熱くなるのを感じていた。
氷河にとって、この30年はどんな“感情”だったのだろう。
30年間も…喜怒哀楽を押し殺すように躾られ、もしかしたら初恋もあったかもしれない。
愛しいと思うこともあったかも。
そんな想いを、周りに押し殺ろされて生きることを強要される。

そんな残酷な30年間。
自分だったら、どうなっていただろうと…
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