冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~


本郷邸に着くと、お手伝いさんらしき女性が出迎えてくれた。お屋敷のような大きな家で、下手したら迷子になってしまうくらい広い。

長い廊下を歩き中に通されると、リビングで幸之助とその妻、喜和子(きわこ)が待っていた。

二人ともゆったりとソファに座り、堅苦しい雰囲気はない。幸之助に会うのは澪が退職の挨拶に来た日以来だ。あの時はここで泣いてしまい、ひどい姿を見せてしまった。

「久しぶりだね、神谷さん。元気だったか?」

人の良さそうな笑みを浮かべ「早く座りなさい」と手招く。

幸之助は、白髪のお洒落なひげを生やし、茶色のセーターにスラックス姿で、にこにこと笑っている。歳は65歳。喜和子はまさにセレブの奥様といった風貌で、黒のノースリーブのロングワンピースに、毛皮のショールを羽織っている。59歳には到底見えず若々しい。

澪は持ってきた手土産を渡すと、深々と頭を下げた。

「失礼いたします。本日はお時間いただきありがとうございます」
「そんなに堅くなることないよ。これからは家族になるんだから」

幸之助は既に澪をここの嫁として認めてくれているようだった。

「なぁ、喜和子」
「お好きにしたらよろしいんじゃないの」

喜和子は匠馬から聞いていた通りの人だった。

何度か会ったことはあるが、ちゃんと会話をしたことはない。常に自由で、役員としての名前は上がっているが、本郷家の経営には一切携わっていないと聞いた。自分以外に興味がないとも。



< 142 / 158 >

この作品をシェア

pagetop