陰キャの渡瀬くんは私だけに甘く咬みつく
***


「ここかな?」


 宮根とも別れた俺は、街の裏手にある少し寂れた場所に来た。

 ここに来いと言った相手はもういるんだろうか?


 ドアを押し開けて中に入ると、受付のような場所に管理人っぽい人がいるのが見えた。

 新聞を広げて読んでいる年配の男性はチラリとこっちを見たので、会釈だけして通り過ぎようとすると声をかけられた。


「ああ、それに名前だけは書いてってねー」

 いかつい見た目のわりに気さくに言われた。

 言われた先には利用者名簿。


 俺は「ども」と小さく返して名前を書き終わると、すぐに先に進んだ。

 進んだ先には関係者以外立ち入り禁止のドアと、トイレ、そしてこの施設のメインルームだけだったから分かりやすかった。

 メインルームに入るとすぐに声が掛けられる。


「ちょっと遅かったね、渡瀬くん」

「……ちょっと、引き留められてて……」

 答えながらドアの近くの床にカバンと脱いだブレザーを置くと、俺をここに呼んだ相手――月原さんへと近付いた。

 彼の近くには一台の卓球台。


 月原さんは、昨日動けない俺に「特訓してあげるよ」と耳打ちしてきた。

 美夜との練習が行き詰まってたこともあって来てみたけど……。
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