暴力
「暴力」

【暴力】意味:大した理由も無いのに人を殴ったり、反対意見を大勢の力で抑圧したりするような、乱暴な行為。
【理不尽】意味:道理に合わない事。

大人になれば理不尽な事はいっぱいあると
学校の先生が言っていた。
確かにその通りだなと今では実感を痛いほどしている。

川城鈴香。27歳役者。
芸歴9年目のやや中堅レベルの人間だ。

役者を目指して18の時に東京に出て今ではドラマや舞台など絶えず仕事があるくらいには人気である。

正直自分自身も見た目はそこそこ可愛い方だと思うしこれくらいの成功は当然だと思っている。


きっかけはSNSの
「あざとい女子あるある」を暇潰しで投稿してたのがバズって有名になった。

それからは本業の役者にも注目されて成功を収めた。


コンコン。ドアが人の手によって鳴らされた時の音がした。

「プロデューサーの前園です。川城さんいらっしゃいますか?」

「はい。今開けますね」

私は、色のついていない無機質な楽屋のドアを開けた。

「どうしたんですか?前園さん。何かありました?」

「イヤー特に無いんだけどね。少し時間が出来たからお喋りでもどうかなって」

前園は何も可笑しく無いのに笑った。

この男は自分をそんなに面白い人間だと思っているのだろうかそんな疑問が心の深海部が湧き上がってくる。 

「そうだったんですね!私も時間ありますし、どうぞ中へ。」


私は完璧な笑顔で対応した。
前園はありがとねと返事をして私の楽屋であぐらをかきながら居座った。

それから前園は私にべちゃくちゃと
喋りかける。

40過ぎのオヤジの口からは言葉以外に唾も飛んでいる。本当にやめて欲しい。


ドアの外からはバタバタとした足音が聞こえてくる。

本番30分前なのに準備が間に合って無いのでスタッフが慌てている様子だった。

もちろんその間も前園はお構いないとしと喋り続けている。


「そうだったんですねー」

「え!そこいけたんですか!
予約出来ないで有名なのに」

「すごい!」

「色んなところ知ってるんですね」

私は適当な相槌をしつつ相手の自尊心を満足させれる言葉を積み上げていった。

この時の私は海外の賞を総なめできる演技だなと自分を褒める。

いや、このお事柄に関しては全女子が受賞できるかと心で呟く。


前園のおしゃべりは終わり手がけた番組もなんとか終わらした。

ファン向けに楽屋前に書かれている名前付きの紙と自分を撮りビルを後にした。


そして、今日放送される予定の番組時間が迫っていたので紫や黄色を配合したカメラ
マークのアプリに今日撮った同じような写真を上げた。


 2分後すぐにDMが届く。


「死ね!ブス!」
「不愉快、本当に死んで欲しい」
「ビッチの顔をあげないでください」
「いつも見てるけど今日は見ません」
「そんな事より芝居の勉強でもしろよ」
「気持ち悪い」
「今日は誰と寝たんですか?」
「早く消えて」


投稿してからまだ2分しかたっていないというのに数多の暴言が私のS N Sへと電波の波に乗ってやってくる。

その黒の矢印は一直線に端末を通して私の腑まで突き刺ささった。


こんな生活は毎日だ。

SNSを上げれば誹謗中傷。

テレビに出れば誹謗中傷。

雑誌に出れば誹謗中傷。

毎日毎日透明な剣で刺されている。

昔の教師は言った。
世に出れば理不尽な事はいっぱいあると。

私は今その荒波の真ん中にいる。

しかし、知らない人に芸能人だからと言って罵詈雑言を浴びせられるのは理不尽ではない。


これは暴力だ。
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