冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。

「千聖ちゃんを女として見れないってわけじゃないと思うわよ?むしろ、女として見ているからこそ触れてこないんじゃないかしら。大切だから」

「…え?」

「ふふっ、何でもない」

最後何言ったのか聞き取れなくて。でも、まり子さんは聞いてももう一度言ってくれなくて。

ふたりで焚き火を始めた頃、仕事の用事で外出していた仁さんが帰ってきた。

アルミホイルに包んだサツマイモを燃えている落ち葉の上に置いていると仁さんが近付いてきて、

「焚き火で焼き芋なんて、風流だな」

わたしのすぐ隣に立った。

「…っ!!」

その時、確かに匂ったの。

女物の香水の、甘い匂い。

間違いなかった。

わたしは子供の頃から鼻がきく。

ガス探知機でも反応しないようなキッチンコンロの本当に僅かなガスの匂いですら強烈に匂う程に。

仕事だと言いながら女の人と香水の香りが移るぐらい近く長い時間一緒に居たのかーー。

「千聖?どうした?」

それに気付いて愕然としているわたしを何も知らないまま、ただ様子がおかしいと思ったのだろう。仁さんが心配そうにわたしの顔を覗き込む。

そんな仁さんを、思い切り突き飛ばした。

…思い切り突き飛ばしたところで仁さんは2、3歩後ろによろけるだけだったけど。

けれど、酷く動揺しているのが目に見えた。

「やだっ!!」

「っ千聖!!」

走って家に逃げるわたしを仁さんが追ってくるのがわかったけど、わたしは構わず家の中に入り自室に飛び込み、内側から鍵をかけた。







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