きみは溶けて、ここにいて【完】






「文子ちゃん、十秒だよ」

「へ、」


 お昼休み、窓の外を見ながら、影君のことを考えてしまっていた。

久美ちゃんの声に、慌てて、視界から空を逃がす。

十秒、ともう一度久美ちゃんが言う。



「……ごめんね。何、が?」

「文子ちゃんが、プチトマトを箸で持ったまま、ぼーっとしていた時間」

「あ、……本当だ。……恥ずかしい」



 行儀が悪いし、あまりにも、ぼんやりとしすぎだ。一度、プチトマトをお弁当箱の中に戻して、箸をおく。

久美ちゃんがケラケラと笑ったから、私も頑張って笑い返した。



 お弁当を食べ終えた後、久美ちゃんの提案で、お昼休みの残りの時間は教室のベランダで過ごすことになった。

かんかんに日が照っていて、金属のベランダの淵には肘をつけない。



 今、きっと、夏の真ん中あたりに、いる。

もうすぐで夏休みがきて、それが終われば、また学校がはじまって、そういうことを繰り返して、いつの間にか、私も久美ちゃんも、森田君も、大人になるのだと思う。


 その過去に、影君は、いたといえるのかな。
すでに過去になってしまったのだろうか。

二度と、会えなかったら、私は―――。



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