きみは溶けて、ここにいて【完】




 それが、文通をしようと言ってから、森田君にはじめてもらった手紙であった。



朝、下駄箱に二つ折りになった便箋がそのままの状態で入っていた。


 ボールペンで書かれた字。

丁寧かといわれればそうでもなく、間違ったのかぐるぐると黒く塗りつぶされた字も途中で何度か出てくる。始まり方も、終わり方も、すべて、森田君らしいと、森田君のことをあまり知らないのに思った。


 確かに、影君のほうが手紙を書くのは上手かもしれなかった。

だけど、森田君の手紙は、時折、ジョークが挟まれていて、思わずくすっと笑えてしまうんだ。

便箋から、明るいオーラを放っているみたいに、綴られる言葉がキラキラしてみえたし、その中で、彼が弱い部分を見せてくれることに、私はなんだかホッとしていた。




 それから、私と森田君は、一週間に二度往復するほどの手紙でのやりとりをしばらく続けた。


 私たちは手紙をもって、影君の喪失を撫でていた。優しい摩擦を繰り返せば、少しずつ、思い出になっていくと信じて。



 教室では、変わらず、少し無理をして明るくふるまうような森田君がいて、大げさに楽しそうにするその横顔や声に遠く離れたところから確認する度に、彼が証明することに呪われていませんようにと祈った。


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