きみは溶けて、ここにいて【完】
久美ちゃんや他の人たちとは違う。
自分から、ほんの少し、心を近づけてしまうような、それにうまく抗うことができないような。
私の中で、そういう存在として、影君が今いるんだ。たった一度会っただけで、そうなってしまうなんて、きっと変なのに。
間違えたくない。傷つけたくない。傷つけられたくない。
それなのに、傷つけ合わないと信じて、慎重に、ちょっとだけ、触れてみたい。
猫背の後ろ姿は、振り向かないまま改札の向こうに消えてしまった。
私は、残念だと思ってしまっていた。
月曜日、教室にいるのが森田君であることが。そんな気持ちは森田君に失礼だと分かっているのに。
――“なるべく、頑張る”
鼓膜に、影君のガラスのような低音の控えめな余韻が残っているのが、嬉しくて。
もうすでに、寂しくなってしまっていた。