相思相愛マリアージュ(前)~君さえいればそれでいい、二人に家族計画は不要です~
俺は直ぐにママと赤ちゃんの元に急いだ。

所持していた母子手帳によれば、妊娠三十週目。

二人の命を救いたい。
そう思ったけど、母体は助からないかもしれない。
脳裏にそんな予感が過る。

グレートAのオペが始まった。

定期的に行われるグレードAのシミュレーション。
人員がベストに揃い、連携が取れて初めて成功するオペ。
大事故で人員を奪われた最中となれば、成功する確率も極端に低くなる。

「早くッ!!」
と思わず、俺はオペナースを叱責してしまった。

難なくクリアできる二十分が慣れないスタッフたちの動きで二十五分かかり、胎児を娩出したが。

「頼む…」

胎児がダメでも、せめてママだけでも・・・
必死に心臓マッサージを繰り返していた。

「槇村先生!!」

蘇生できる時間はとっくに過ぎている。

でも、奇跡を信じたかった。
不可能を可能するのが俺のはずなのに。

「・・・」

俺の顔は汗や涙、鼻水でグチャグチャだった。

ようやくキモチに踏ん切りをつけて、手を止めた。
俺が死亡時間を告げ、オペ室に居たスタッフ全員で患者に向かってお辞儀をした。



――――俺は二人の命を救えなかった。











< 57 / 230 >

この作品をシェア

pagetop