君の言葉で話したい。
「まああんな店、続けても、
何もないし、清々するんだけどね。」
今日は最終出勤日。
これまでの荷物を整理して、
出て行く日である。

鈴を心配した恋人が、
店の前まで、
付き添いに来てくれた。

「卵を投げつけるなんて、
とんでもない人だな。」
「本当に。反論できない店も店なんだけど。」
高校時代から交際している鈴の恋人である、
蒼太は、
温厚で心配性なところがある、
絵に描いたように善人である。

店の前に着いた。
さすがに、
蒼太に店の中に入ってもらうわけには、
いかないので、
付近で待つように言いつける。

蒼太は鈴が気丈に振る舞っているのを、
見ても尚、うろうろと立ち尽くした。
大丈夫?俺が着いていこうかと、
うるさい。
まるで、分娩室に入った
妻を待つ、
配偶者のように、
落ち着きが無い。

その姿を見ていると、
何か酷い扱いをされるのではないかと、

荒んだ心も自然と癒されて、
勇気が出た。
鈴は心の中で、
蒼太にお礼を言う。
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