あなたの写真が欲しくて……
先輩と言っても、私と晃司先輩との間には、なんの接点もない。

あるのは、同じ高校の2年と3年ということだけ。

そんな私が、晃司先輩を知ったのは、1年前のこと。



私は、朝の通学の電車の中で痴漢に遭っていた。

スカートの下から差し入れられた手。

ヤダ……

怖い……

気持ち悪い……

やめてほしい……

でも、怖くて声が出ない。

お願い。誰か助けて……


そう思った正にその時、突然、左後ろから、声がした。

「おっさん、やめろよ」

その言葉と同時に、スカートの中から手が抜かれた。

「いや、俺は何もしていない。たまたま偶然触れただけで……」

背中越しに後ろで揉み合ってるのを感じる。

どうやら、声をかけた男性が痴漢のその手を掴んでいるらしい。

「偶然、手がスカートの下に潜り込むかよ!
 次の駅で降りて、駅員のところに行くぞ」

「なっ! 離せ!
 俺はやってない!」

痴漢が暴れるので、それを避けようとする人々が動き、身動きが取れなかったはずの車内で、私の周りだけ少しだけゆとりができた。

私が振り返ると、手首を掴んで持ち上げているのは、同じ高校の制服を着た男子生徒。

一方、暴れているのは、一見、紳士にも見える口髭を蓄えた白髪混じりの中年男性。

もしかしたら、ちゃんとした企業の偉い人かもしれないと思わせる、父と同年代にも見える男性。

痴漢は見るからに脂ぎった気持ち悪い男性に違いないという先入観を覆す風貌だった。

電車はそのまま次の終点の駅へと静かに滑り込んだ。

男子生徒は、男性の手首をしっかりと握ったまま、私に視線を向ける。

「君も来て。被害者なんだから」

私はそのままこくんと頷いたけれど、不安が胸をよぎる。

これで逆恨みとかされたらどうしよう。

この先、同じ電車でまた会うこともあるかもしれない。

そんな時、もし何かされたら……

でも、助けてもらったのに、そんなことは言えなくて……

私は、言われるままに一緒に電車を降りる。

すると、電車を降りるまでは諦めたようにおとなしくしていた痴漢が、ホームに降りた瞬間、突然、腕を振り払って逃げようとした。

「なっ! ふざけんな!」

男子生徒は、人混みでうまく走り抜けられない痴漢にあっという間に追いつくと、そのまま足を払って地面に組み伏せた。

後ろ手に腕を捻り上げると、痴漢はうめき声をあげる。

「い、痛い! 悪かった。
 逃げないから、離してくれ」

そこへ、駅員さんが駆け寄ってくる。

「どうしました!?」

「痴漢です。電車を降りた途端、逃げようとしたので、取り押さえました」

男子生徒は、手を緩めることなく、淡々と答える。
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