鵠ノ夜[中]
『でもまあ、逃げたってことは……
なんとなく何言われるかわかってるってことだよね?』
『っ、わたしは、あの子に誘われて、』
「……柊季、胡粋。
その子を音楽室まで連れてきてちょうだい。はとり、あなたも空き教室からこっちに来て」
わかっているなら直接話をつけた方が早い。
彼等にもある程度モルテのことは教えたけれど、すべてを理解しているわけじゃない。そして、少なからず自分を売った経験がある子だろうから、女同士じゃなきゃ聞き出せないこともある。
『君のことを、ホテル街で見掛けた人がいるんだって。
……ウチのお嬢様はこういうのに厳しくてねえ』
『っ……だから?』
雪深の方は、少しづつ核心へと迫っているようだ。
電話越しにすこし聞こえた女の子の声に、わずかだけれど動揺が混ざっているのが見える。
『まあでも、自分を売っただけならお嬢はこんなに過敏にならない。
……ただの"エンコー"をわざわざ突き止めるほど、お嬢は暇じゃねえし』
『だから、なによ、』
『売り捌いてるよねえ、おくすり』
はっきり。
雪深が言えば、女の子はハッと息を呑む。
『悪ぃけど、関東一帯はウチのお嬢の管理下でさ。
そういうことされたら困るんだよねえ。知ってる?警察内部でも、麻取が動いてんの』
「レイ、連れてきたよ」
キィ、と音楽室の扉が開く。
胡粋と柊季、そしてふたりが連れてきた女の子。あとは合流したらしいはとりが中に入って扉を閉めたのを確認してから、雪深と繋いだ電話をスピーカーに変更した。