鵠ノ夜[中]



雪深の方か、と確認して、耳を澄ませる。

電話越しの雪深も物腰柔らかく『ちょっとねえ』と言っているし、険悪な雰囲気もない。雪深が最初に他愛のない話をするのを聴きながら、今日のために持ち出したもう1台のスマホで、柊季の連絡先を開く。



1分、2分、3分……そして、5分。

雪深が、「聞きたいことがあるんだけどさ」と本題を切り出した。



それと同時にはとりの方でノイズが入る。

次に聴こえた言葉は、予想していた通りのもの。



『雨麗、こっち逃げられたかもしれねえな』



「了解。柊季に繋ぐわ」



5分を過ぎても、はとりとの待ち合わせに女の子が来ない。

両方を同時に呼び出したことで、"何かある"ことを悟られた。



準備していた柊季の電話にコールを鳴らす。

そうすれば、彼はすぐに出てくれて。




「シュウ。

はとり側の子、逃げられた可能性があるわ」



『完全に読み通りじゃねーか。

……いま見っけた。俺のこと警戒してんな』



柊季には正門で張ってもらっている。

裏門はほぼわたしたちが送迎で使用しているから、正門で張っていれば帰り際に見つけられるのは間違いない。



その読みが、しっかり当たったようだ。

彼とやり取りしながら同時に、1階で待機させていた胡粋に『正門へ向かって』とメッセージを送れば、間もなく柊季と繋がった電話越しが騒がしくなって。



『っ、なんですか、急に』



『なんですか、じゃないよ。

……君、はとりから誘いを受けなかった?』



こういうのは柊季よりも胡粋の方が得意だ。

それをわかっているからか、柊季のスマホと通話が繋がっているけれど、電話越しに柊季の声は聞こえない。



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